ちり山つも美の部屋

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【文系こそ楽しめる理系ミステリ】森博嗣『すべてがFになる』

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

巷では理系ミステリーとして認識されている作品。
作者の森博嗣氏が工学部助教授をしているだけあって、プログラミング等の理系の専門用語が多々出てくる。そこだけを取り出せば、素人には理解できない難解な箇所もあるが、大方スルーしても作品自体十分楽しめる。

全体的に、冷淡で無機質な印象を受ける。
主人公犀川の思考順路は、無駄なものを排除し切った、非常にシンプルなもので、論理的な筋道が通っているかを重視しているからだろうか。
そこを面白いと思えるかどうかなのだろう。
理系と縁のない私だが、その冷たく機械的な発想には多々魅力を感じた。
自身にない考え方への憧れなのだろう。

理系、文系と思考が大別されるのは事実だと感じた。
犀川のような思考回路は私にはできない。
答えを提示されて初めて考え至ることが少し悔しい。
ただのミステリー小説に終わらず、感情さえも消してしまう、そんな料簡を目撃することで、自身の知的な部分が表面化したような錯覚を味わえる面白さがある。
そういった意味で、文系の人こそ楽しめる作品なのではないだろうか。